先代がなんと言おうとガツガツ行った方がいい理由

アトツギ甲子園は、全国各地の中小零細企業の承継予定者(アトツギ)が新規事業アイデアを競う、中小企業庁が主催するピッチイベント。開催に際し、若手アトツギの挑戦や可能性をテーマに連載記事を予定している。

 

スタートアップに関する見識もさることながら、「これからの日本を変えるのはアトツギ」とファミリービジネスの経済合理性をことあるごとに発信し続ける早稲田大学ビジネススクール入山章栄教授。不確実性の時代にイノベーションを起こすアトツギの役割を問うていくと「今は家業を変えられる奇跡のタイミング」という聞き捨てならない言葉が。その真意は?そのためにしておくべきことは?

 

いよいよ20212月に、中小企業の事業承継予定者のためのピッチイベント「アトツギ甲子園」が開催される。入山氏のゲキアツな言葉の連続にアトツギは居ても立ってもいられなくなるだろう。

 

 

アトツギよ、今が最後のチャンス、奇跡のタイミングを逃すな!

 

【ゲスト】

早稲田大学ビジネススクール教授

入山 章栄 氏

スタートアップのみならず、ファミリービジネスの経済合理性にも知見が深い。

著書に「世界標準の経営理論」など。

 

【聞き手】

一般社団法人ベンチャー型事業承継

事務局長 奥村 真也 氏

黒いシャツを着ている男性

自動的に生成された説明

 

 

不確実性の時代に現状維持なんてありえない

 

【奥村氏】

コロナ禍も加わって予測不能なVUCAの時代に突入したことをより実感しています。同族経営のアトツギにとってはこんなときこそイノベーションを起こすチャンスだとも思っています。アトツギにとって今こそ必要な心がまえは何でしょうか。

 

【入山氏】

不確実性の高い時代に企業が変化するのは当然で、現状維持なんてありえません。経営者の役割はイノベーションを起こし続けることに尽きる、っていうことをアトツギの皆さんにはまず伝えたいですね。

 

同族経営の事例ではないですが、このあいだビズリーチを創業した南壮一郎さんから「経営者のこれからの仕事って何かわかりますか?」って聞かれまして。何ですか?って聞いたら「それはね、赤字を出すことなんですよ」と。

 

【奥村氏】

どういうことですか?

 

【入山氏】

つまりイノベーションって言葉で言うのは簡単だけどやるのは大変で、どうしたって最初は赤字が続くじゃないですか。でもそれができるのって経営者だけなんです。つまり経営者が意思を持ってやっていることを見せているから周りは赤字でもしょうがないなと思える。

 

逆に黒字になったら、ビジネスは回っていくのでオペレ―ションの上手な人に任せればいいんです。南さんは今、ホールディングス会社とその傘下にある新規事業を担う会社のトップに就いて、ビズリーチの経営は優秀な人に託しています。

 

 

まだどうにかなる、の気持ちが一番こわい

 

【奥村氏】

リーダーシップを持って物事を進められるアトツギだからこそイノベーションに取り組みやすいということですね。

 

【入山氏】

そうです。ただ一方で、アトツギの皆さんには危機感も持っています。地方のアトツギほど、うちの業界はまだどうにかなるでしょ、って思い込んでいる人が多いような気がして。そういう方々には、デジタルが入ってきたらあっという間に取って代わられてしまいますよ、と警鐘を鳴らしています。

 

コンサルタントの冨山和彦さんが、コロナが来る前に言っていたことがとても印象的で。「日本ではデジタルが入ってきた順に業界が衰えてるんです」と。まず家電、半導体、次にアマゾンがやって来て小売がやられて。IoTの波がやってきた自動車が今その渦中にある。これから間違いなくそこに製薬が入ってくる。

 

【奥村氏】

ゆでガエルになってはいけないということですね。

 

【入山氏】

どの業界にもデジタルの波がやってくるのは間違いないんです。あとはいつ来るかだけ。地方にいるとそれを肌感覚で感じられないところがあって、格差が広がっているなって気がしています。アトツギには今こそそこに斬り込んでほしい。

 

 

経路依存性からようやく解放された今こそ

 

【奥村氏】

どんなところから斬り込んでいけばいいんでしょうか?

 

【入山氏】

実は、斬り込んでいくのに今って最高のタイミングなんです。

 

【奥村氏】

めちゃくちゃ気になりますね。どういうことですか?

 

【入山氏】

まずその前提をお話ししましょう。会社っていろんな要素がうまくかみ合っているから合理的にスムーズに回っているんですけど、逆に多くの要素がかみ合いすぎていてどこか一個だけ変えたとしても全体を変えることはできないんです。これを経路依存性って言います。日本の会社が平成の30年間変われなかったのはほとんどこの経路依存性が強かったことが理由だと思っています。

 

たとえば企業がイノベーションを起こすのにダイバーシティ経営が重要だって以前から言われてました。でも多様性を増やそうと思ったら、新卒一括採用や終身雇用制もやめないといけないんです。そうすると評価制度もさわらないといけないし、働き方も変えていかないといけない。そうなると働き方改革を支えるDXも必要ってなるんです。

 

こういうものをすべて変えないと。ダイバーシティだけ進めたところで、多様性から生まれるイノベーションなんて出てきやしません。

 

【奥村氏】

今がチャンス、というのは、それら全体一式を見直すことのできるタイミングが今だっていうことですか?

 

【入山氏】

そうです。今ってコロナ禍で強制的に働き方改革が進んでいるじゃないですか。リモートになると、会社にずっといて謎の存在感を放って給料もらっている社員とかいらなくなる。どれだけ成果を出したかが問われるようになるんです。そうなるとあなたの成果、つまりジョブはなんですか?っていうことになって仕事がジョブ型に変わっていきます。

 

今、多くの会社でDXの導入が進んでいます。リモートワークが進んで、じゃあ人と会えなくなったかというとそんなことはない。リモートツールを使って今まで会えなかった人も会いやすくなって、人脈を増やしている人もたくさんいます。一方で、リモートワークが進むと会社へのエンゲージメントはどうしたって落ちていくもの。そうなるとどうなるか?来年以降は大転職、大副業時代になると思っています。

 

つまり、経路依存性によってなかなか変えられなかったことが、社会の変化によって一気に変わり始めていて、全体を変えられるチャンスがやって来ているということなんです。どうにも絡み合っていた経路依存性から解放されるなんて、もう奇跡というしかないでしょ。

 

【奥村氏】

今こそ、イノベーションを起こすチャンスだと。

 

【入山氏】

しかもアトツギだからそれができるんです。つまりすべてを一気に変えられるのは経営者、しかも権限のあるアトツギだからこそ。でも変化が激しいから、今がチャンスなんですけど最後のチャンスでもある。だからこそ、これからの数年はものすごく大事な時期だと思っています。

 

 

 

これからはデジタル+既存が強い

 

【奥村氏】

すぐに動きましょうということですね。

 

先ほど、デジタル化によって既存のプレーヤーがつぶれてきたというお話がありましたが、デジタル化を担っていくのは、デジタルのプロなのでしょうか?それとも既存産業のプロなのでしょうか?後者の側にいるアトツギとしてはデジタルのプロにやられてしまうんじゃないかっていう危機感を持っていると思うのですが。

 

【入山氏】                                                    

ぼくはデジタルVS既存の時代は終わって、デジタル+既存こそがこれからは強いと思っています。既存産業の中小企業はたくさんの宝の山を持っている。ただ、課題は時代に合わなくなっているということ。

 

家業で築いてきた技術、サービスについて、こういうお客さんだったら売れるよね、こういうブランディングできるよねと考えていけば大いにチャンスがあります。そこにデジタルを使うことで新しい価値を出していってほしいし、中小企業だからこそその切り替えも早くできるはずです。

 

 

デジタル大戦争の第2回戦は日本にこそチャンスがある

 

【奥村氏】

デジタル化をしてもどこにビジネスチャンスを見出せばよいかわからないアトツギもいると思うんですが。それについてはいかがでしょうか?

 

【入山氏】

この10年ほどはいわゆる世界的なデジタル大戦争の第1回戦だったわけですが、残念ながらそこで日本はGAFAに完敗しました。大量のデータを吸い上げる仕組みを作って、そこからデジタルコンテンツを提供できたところが勝ったわけです。

 

第一回戦の戦う場所は、スマホでした。ここはまだ既得権益のない更地。なのでデータを吸い上げて、デジタルコンテンツを提供できたとこが勝っていた。その第1回戦が終わり、これから第2回戦がはじまるところです。そこではすべてのものがネットでつながってきます。つまりIoTでありIoA(アニマル)であり、すべてのモノにつながっていくわけです。モノは圧倒的に人より数が多いわけですが、そこでは単純につなげるだけでなく、実はモノ、サービス自体が良くないとダメなんです。

 

つまりGAFAが簡単には勝てない世界です。世界でモノづくりのレベルが高いのは今のところドイツと日本。サービスでいうときめ細かいサービスができるのは日本なんです。だから日本にとって第2回戦は相当チャンスがあるわけです。

 

しかも日本の多くのアトツギはモノづくり、サービスのところにかかわっているわけですから。既存のままではいけませんが、デジタルとつなげることで新しい価値を生み出し、ビジネスチャンスを獲得できる可能性は大いにあると言っていいんじゃないでしょうか。

 

【奥村氏】

アトツギにはめちゃくちゃチャンスがあるんだと勇気をもらいました。ただ、皆がその波にうまく乗れるわけではないと思うんです。今、アトツギがやっておくべきことは何でしょうか?

 

 

家業に戻る前にまず知の探索を

 

【入山氏】

これまで取材したアトツギの会社の中には、もともと連綿と紡いできた技術と、戻ってきたアトツギの新しい視点がかみ合って大きなブレークスルーを起こしている会社がたくさんありました。それらの経営者の話を聞いていて気付いたことが3つあります。

 

1つは、そもそも親の事業を継ごうと思っていない人が多くて、若い頃はベンチャーで働いてたりとか、大手企業で働いてたりとか、海外留学してたりとか、そういう方がけっこう多いということです。その人たちが何をやっていたかと言うと、知の探索なんです。

 

家業の事業とは一見関係なさそうなんだけれど、幅広い知見を蓄えていてそれを持って帰ってくると家業の新たな価値に気づくことができるんです。家業の周辺の会社に武者修行に行くと、どうしても新しい価値に気づきにくい。ただそういう人は、ベンチャー型事業承継の仕組みを活用して、知の探索をすればいいんです。

 

 

アトツギだからこそ未来をつくることができる

 

【奥村氏】

2つ目は何でしょうか?

 

【入山氏】

やっぱりビジョンです。イノベーションを起こすって未来をつくることなので、会社の30年後、50年後を考える必要がある。そこではアトツギが圧倒的に有利です。一般的な会社のように2期4年で社長が交代するってことがなくて、何十年という単位で家族が、従業員が幸せになるにはどうしたらよいかを考えて事業に取り組むことができる。

 

これは経営学ではセンスメイキング理論と言います。組織のメンバーが、やっていることの意味について腹落ちし、それを集約させていくプロセスのことを指します。私が取材したあるアトツギは、毎週古参の従業員に対して、私はこういう世界を作りたいんだという分厚い資料をつくって説明し、巻き込んでいました。

 

【奥村氏】

3つ目は何ですか。

 

【入山氏】

これは事業承継の最大のポイントと言っていいかもしれませんが、親との関係をどうするか。これも大事なところです。スムーズに事業承継してくれればいいんですが、親が経営に口を出してくるとか、株を渡してくれないとか、番頭さんが残っていて口うるさいとか…。

 

このあたりはまさに家族の話なので経営理論ではどうにもできないところでして。事業を譲られた後にいかに自分で旗を立ててやりたいことができるか、その体制づくりが実は大変です。

 

しかも高齢でも元気な人がどんどん増えていますから、80歳になっても親はぴんぴんしてる。これを老老継承って呼んでるんですけど、いかにして親からよいかたちでステップダウンしてもらうかが重要です。

 

【奥村氏】

やはり、できるだけ若いときに事業承継することが大事ということなのでしょうか?

 

【入山氏】

今の時代、年齢はあまり関係ないと思いますが、会社を変えていこうと思えば5年、10年はかかるものなので、動き出すのは早ければ早いほうがいいと思います。

 

 

これからの日本を変えるのはアトツギだ!

 

【奥村氏】

最後に、若いアトツギにメッセージをお願いします。

 

【入山氏】

これからの日本を変えるのはアトツギです。日本の企業のうち99.7%は中小企業で、その多くがファミリービジネスなわけですから。そこが変わればおのずと日本も変わるんです。実際に素晴らしいアトツギの方々がどんどんと出てきて日本を変え始めています。

 

ぜひ知の探索をし、新しい価値を見つけて、ご先祖様、親のことを尊敬しながらこういう未来をつくるんだという旗を立てて、会社をどんどん変えて面白いことをやっていってください。

 

【奥村氏】

今日は若いアトツギにとって刺激のある言葉をたくさんいただくことができました。ありがとうございます。

 

【入山氏】

皆さん期待しています。アトツギ、ガンバロー‼

 

 

【事務局より】

「アトツギよ、今が最後のチャンス、奇跡のタイミングを逃すな!」という言葉に、企業の承継予定者が未来をつくり、これからの日本を変えていくのだと改めて感じました。

 

思い描く事業がまだ実績が出ていなくても、まだローンチしていなくても構いません。

「アトツギ甲子園」で、自分が描く未来を堂々と語って下さい。

 

20秒で完了する仮エントリーはこちらから:https://atotsugi-koshien.jp/

アトツギ甲子園